【第2回】調査設計とロジカルシンキング

Written by KFS on . Posted in リサーチとロジカル&ラテラルシンキング

リサーチの現場ではロジカルシンキングがバックボーン

調査において必要なロジカルシンキングの考え方
-リサーチの基本のキ-

 

ロジカルシンキングとは、本来、「論理的(ロジカル)に考える(シンキング)・筋道を立てて考える」思考法ですが、リサーチの現場における「ロジカルシンキング」は、以下が特に重要となる基本の考え方になります。

調査において必要なロジカルシンキングの考え方

1. 目的思考:(ドリルを買う人が欲しいのは「穴」であることの理解)

  • 目的遂行には複数の手段があることへの認識
  • 手段の議論におぼれない
  • 議論が帰るべきアンカー(固定されるべき錨)の明確化
  • 目的と手段を混同しない

2. ゼロベース思考:

  • 既存のやり方や慣習の払拭・ゼロから最善の方法を考える
  • 思考の枠を広げることで今までとは異なる解決方法を見出す

3. フレームワーク思考:

  • 漏れやダブりなどがないように全体像を見渡す
  • 思考の幅を広げるフレームワークを活用する

4. 優先順位付け・重点志向: 

  • 上位目的と下位目的のプライオリティづけ、正確な認識
  • 枝葉末節よりも、本質論にフォーカス

5. グランドデザイン思考(マクロからミクロへ):

  • 全体と部分の関係把握、構成要素への落とし込み
  • 全体構想思考
  • 逆算思考(結論から逆算して、やるべきことを考える)
  • あるべき姿と現在の姿のギャップに基づく目標設定、戦略&戦術プラン策定

6. 仮説思考:

  • 仮説立案→検証サイクルを回していくことで、闇雲に対策を打つよりも効率的に回答を導き出す

リサーチの現場でのロジカルシンキング-調査設計編

ロジカルシンキングを生かした調査設計の作り方
-「詰めの甘い」調査設計を作らないために。-

具体的に、まず、調査を計画する際の始めの段階、「調査設計を考える」際のプロセスに、ロジカルシンキングの考え方がどのように生かされているのかを見て行きましょう。

商品やサービスの新規開発やリニューアル計画などを考える際に、調査をどのように活用していくか、調査計画の全体プランを考える場合を例にとって、その落とし込み方を見て行きます。

リサーチャー、マーケッターで、この考え方が実践できていないと、ちょっと困ったことになってしまいます(?)

KFSでは、この基本枠から、さらに考え方を深めるために、「ロジカルシンキング+ラテラルシンキング」の両方が必要だと考えています。

調査設計におけるロジカルシンキング
-マーケティング計画に即した調査の全体計画の作り方-

▼STEP1). 「目的思考」で調査目的を明確化にする

調査目的は、マーケティング目標達成といった大きなシナリオ(=「グランドデザイン思考、全体構想思考」)に基づき、目的を明確化していくことが重要です。
そして、調査目的においても、全体を俯瞰し「上位目的と下位目的」といった目的の相互関係を理解・関連メンバーと認識の共有しておく必要があります。
たとえ、それが、「お客様の声に耳を傾ける」ということであっても、なんとなく耳を傾けているという曖昧な目的では、情報センサーが働きません。漠然としたイメージでは垂れ流しの情報を横目で見ているだけになりかねないのです。

▼STEP2). 仮説固め(仮説検証型調査)

論点がぼやけた調査ほど、無意味な調査はありません。
ここでいう仮説とは、わかりやすくするために、「商品やサービスの開発、リニューアルなどを行う際に考えている方向性」と狭義の意味で定義します。
「仮説固め」とは、ですから、「商品やサービスの開発やリニューアルなどを行う際の、ターゲット、商品・サービスの形、売り方などの考え方を整理し、一定の方向性として取りまとめること」にほかなりません。
仮説検証型調査では、この「商品・サービスの開発、リニューアルの方向性」に対して、妥当性があるか、ないかを検証することで、より効果的&効率的に戦略・戦術の精度を上げるために行うものです。
方向性を検討していく調査だからこそ、「そもそも、どのように考えるのか(=仮説固め)」が重要となるのです。
50%程度のアイディアの芽を、速めに検証し、「これはいける、これはダメ」と検証を重ねることで効率的に成功に結びつけようとすることが、ロジカルシンキングの重要な考え方です。

*そうは言っても、新たな商品やサービスの開発の方向性や、既存商品のリニューアルをどう考えればいいのか、「仮説作り」「アイディア出し」自体に悩むもの。
KFSが「ラテラルシンキング」の重要性を指摘しているのも、ラテラルシンキングを利用すると、この「仮説作り」の際の発想が広がるからです。

*実態把握調査の場合は、「知らないことは何か?/知るべきことは何か?」をきちんと議論した上で、クリアにします。この際にきちんと課題出しをしていくことが、有用な調査を実施する際のポイントとなります。

▼STEP3). 調査設計をゼロベースで考える

誰に、何を、どのうように聴くか、調査目的を達成するための手段である調査設計について、最善の方法(調査設計)を「ゼロベース」の状態で考えます。
この段階では、できるだけ目的達成のために、プラン自体の選択肢を多く持つこと、すなわち、複数の考え方、複数の調査プランのアイディアを出し、組み合わせで問題解決に繋げることに重点をおきます。
定量調査だけでは物足りない、定性調査だけでは説得力に欠ける、など、1つの調査で多くの目的を達成しようとするとうまくいかない場合も多く、中途半端なものに終わる場合があります。
上位目的と下位目的との関連性を考えながら、調査手法の組み合わせや、選択肢の中から、予算やスケジュール、プロジェクト全体の目的性を考えて、最適な方法の組み合わせを考えていきます。
*この際にも、「ラテラルシンキング」の考え方を組み合わせると、より、ゼロベースでの発想・議論が広がります。

▼STEP4). 「フレームワーク思考」で、モレ・ヌケ・重複がないように、目的達成のための調査プランを抽出・点検

複数の調査プランを、「フレームワーク」を用いて、モレや抜け、重複がないか、調査プラン全体のチェックします。
例えば、誰に、何を聞くかを分解し、縦軸に顧客区分、横軸に目的A、Bなどのマトリックスを作成して、各軸に考えられた複数の調査プランをそれぞれプロットしてみるのです。
そうすると、今回の調査目的達成のために必要な情報のうち、何が抜けているか、が明確になります。
調査プラン全体のモレ、抜けや重複しているものについて、全体像を掴むことができます。

▼STEP5). 調査全体のアウトフレーム(調査プラン全体マップ)の明確化

調査目的達成のためには、例えば、新規客と既存客など、異なる属性の方に、異なる質問をして、統合分析をして結論を出していく場合や、定量調査と定性調査を組み合わせて顧客理解を深めることが必要になる場合があります(ハイブリッド調査)。
調査目的に沿って、プランの中から、何と何が必要となるか、「グランドデザイン思考」で、調査全体の計画アウトフレーム=全体像(調査設計)を決めていきます。
出来上がった調査全体のアウトフレーム(調査設計全体像)は、当初の社内ミーティングの結果とは異なるかもしれませんが、ロジカルシンキングでここに至るまでのプロセスがしっかりしていれば、それが目的達成のための最短距離として、自信を持って語れるプランとなります。

▼STEP6). 調査設計:目的から逆算したマクロからミクロへの落とし込み

調査全体のアウトフレーム(調査設計全体像)が明確化されれば、次は、個別の調査ごとに、誰に、何を聞くか、調査設計の詳細を詰めていきます。
この時点では、個別調査ごとの目的、分析アウトプットイメージ、等が明確化されて、大きな絵が描けていますので、個別調査ごとに、調査対象の設定、サンプルサイズの設定、サンプルサイズに基づく出現率の試算と難易度判定、リクルーティング、対象者特性等も加味した調査手法の選定、等、細部に至るまでの全てを、ロジックの整合性・一貫性のもとに決めていきます。
調査対象者やサンプルサイズの設定、質問紙の作成にあたっては、「ロジックツリー」、「MECE」、「ピラミッドストラクチャー」など、より狭義のロジカルシンキングのための思考ツールの考え方が有用ですので、それはまたの機会に見て行きたいと思います。


簡単に言えば、調査設計も、旅行計画を立てる際と同じ。

まずは、グルメで美味しいものをいっぱい食べたいのか、今まで見たこともない世界を体験したいのか、 ぼーっと温泉でも入って癒しが必要なのか、まずはどう楽しみたいのか、目的をはっきりさせて、こんなことがやりたいというイメージを固めましょうということ(STEP1.目的の明確化、STEP2.仮説固め)。

やりたいこと、ゆずれない条件さえ決まったら、あとは、ちょっと横道に逸れて考えるのも”アリ”ですね・・・(STEP3)
もしかしたら、当初は予算的に国内・近場をイメージしていたかもしれないけれど、同じ条件で、思っても見なかった所が、候補に挙がるかもしれません。

それから先の調査設計に落とし込むプロセスは、いわゆる、全体像の把握と実現可能性判断~細かい手配まで(STEP4~STEP6)。
決められた予算内で、やりたいことがちゃんとできるか、モレや抜けはないか、きちんと、予定の日に、宿や乗り物の手配ができるかといった細部のツメを、きちんと行う、というSTEPです。

いずれも、調査会社とお客様との間のキャッチボールで進めていくプロセスですが、最終的に、調査について、”満足した”、”やって良かった” ”役に立った” と思っていただくための裏側には、調査設計の始めの段階から、ロジカルシンキングの考え方が欠かせません。

まとめ:調査の考え方のベースはロジカルシンキング

ロジカルシンキングとは、「論理的(ロジカル)に考える(シンキング)・筋道を立てて考える」の考え方であり、リサーチを行う際の大きなバックボーンとなっています。

特に、プロジェクトを立ち上げて、マーケティングリサーチ計画を立てる段階や、調査目的から、全体像を設計し、誰に、何を、どのように聴くのか、細部に落としていく調査設計の全体計画(グランドデザイン)を検討する際には、その考え方を使いこなすことが重要です。

リサーチとロジカル&ラテラルシンキング・コンテンツ

はじめに:リサーチと思考法
【第1回】So What?/Why So?(調査目的の明確化)
【第2回】調査設計とロジカルシンキング
【第3回】Fact&Stick:定量調査と定性を組み合わせた ハイブリット調査の薦め(調査手法)
【第4回】みんなって誰?-代表性(調査対象者の選定)
【第5回】定量的な裏づけ-標本数:サンプルサイズ(標本数)の考え方について

関連情報

KFSの調査設計に関する基本的な考え方は、こちら→

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KFS

マーケティングリサーチ・調査ソリューションの専門会社、株式会社KFS(ケイ・エフ・エス)。 創造性は顧客を深く知ることから始まる。 市場・ターゲット可視化、インサイト理解のためのインタビュー調査など。 定量調査と定性調査を組み合わせた統合型ハイブリット調査による市場理解~受容度検証、価値創造ソリューション。