C【第6回】白
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白という色にどのようなイメージをお持ちでしょうか?
ウェディングドレスに代表されるような「純粋無垢」「新たなスタート」を象徴する色?
お葬式の際の白装束のように、「命の終わり」、「終焉」を示す色?
汚れのない白には清潔感ありますが、無彩色であるがゆえに、そこから想起されるイメージは、捉える側の心理状態が投影され、その意味が大きく変わっていきます。
「白紙の状態」「どんな色にも染まる」ことを示す色だからこそ、自分が楽しい気分の時は、華やかな色に、自分がさびしい時には、孤独な色に・・・。
調査においても、メタファー(喩え、イメージ)として“白”が出てきた場合、文脈によって、どのような意味を持っているのかの振り幅が大きく、言葉からの意味を読み取るのが難しいものの一つです。
もちろん、いけばなも、白は難しい・・・。
例えば、代表的な白い花の花言葉を見てみると、
- 菊
=お葬式の花のイメージが強いですが、花言葉は、「高貴」「高尚」「高潔」「清浄」 - 水仙
=「自己愛」「エゴイズム」「神秘」「尊重」。
水面に映った自分の姿に恋をした、ギリシャ神話の「ナルキッソス」の化身。
自己愛の強い人をナルシストというのもこの話から来ていますね。 - ゆり(白)
=キリスト教で、聖母マリアの象徴。フランス、ブルボン王朝のシンボルとしても有名。「純潔」「威厳」「無垢」「荘厳」。 - カラー
=「清浄」「乙女のしとやかさ」 - 雪柳
=「愛らしさ」、「静かな思い」
「白」という色の持つ「無垢」「純粋さ」「優雅さ」「高貴さ」という色のイメージに加えて、その花の個性が強調される花言葉になっているように思います。
そして、「白」は、宗教的なシンボルとしても切り離せないでしょう。
日本においての「白」は、白装束に始まり、白蛇信仰、白狐信仰、仏教との関わりの深さから、白い象への憧れといったように信仰の対象としての「白」が根付いています。
生死をつかさどる神の色、人知が及ばない色=「白」なのかもしれません。
ですから、今回のように、白一色、しかも和花で活けるとなると、ちょっと間違えると、本当に“仏花”になってしまう・・・!
本当はもっとたくさん色を多く、白を色の引き立て役に使う使い方が好みですが、白について語るにはちょっと違うので、ぐーっと我慢して抑えました。
白の持つ宗教性といえば、大航海時代のスペインによって滅ぼされたアステカ王国の、ケツァルコアトル伝説をご存知でしょうか?
このお話も大きく“白”という色が関わっています。
アステカの創世記は、オメオテトル(別名オメテクトリ(Ometecutli)またはオメシワトル(Omecihuatl)という一人の始原神から始まり、
彼には、
赤いテスカトリポカ (煙を吐く鏡、という意味)
黒いテスカトリポカ
白いケツァルコアトル(羽毛に覆われた蛇、という意味)
青いウィツィロポチトリ(南の蜂鳥、という意味)
の4人の息子がいました。
この4人が世界を作り、4兄弟の神々は互いに争い、勝利を収めたものが世界を作り直していく。
そして第5の太陽の時代、アステカの神話の中では平和の神とされ、生贄を嫌っていたというケツァルコアトルが、生贄を好むテスカトリポカによって追放されたものの、「一の葦の年に、白い肌で黒い髭をはやした姿となって、必ずこの地に再び君臨するであろう」と予言したというように語り継げられていました。
「一の葦の年」とは、西暦に換算すると1519年。
そして、スペイン人のエルナン・コルテス率いる500人がアステカの領内に到達したのが、ちょうど1519年です。
その知らせを聞いた当時のアステカ王、モクテスマ2世は「一の葦の年、リーダーは白い肌で黒い髭=ケツァルコアトルの再来?」と大いに動揺し、軍事的にははるかに優位であったのに、戦う道を選ばず、コルテスに対して「国をお返しします」と言って丁重に迎えたという話もあるほど。
初動を誤ったがために、わずか500人に黄金や財宝だけではなく、人民、文化、言葉など、根こそぎ強奪・粉砕されてしまうきっかけを作ってしまったのです。
アステカ文明を滅ぼしたコルテスにしろ、インカ帝国を滅亡に導いたピサロにしろ、本当に大航海時代の強奪はすさまじく、何も残っていないようですね。
先日、東京・上野国立科学博物館にて開催されている「インカ帝国展」を見てきましたが、あまりの展示物の少なさに驚きました。
「あなたの神、主は焼き尽くす火、妬む神である。」
旧約聖書 申命記
だから、キリスト教信者の彼らは全てを破壊したのでしょうか?
当時の考え方や価値観を現在に当てはめることは無理があり、非難するのは難しいことを理解していますが、強欲という言葉以上に、一文明を丸ごと、完膚なきまでに破壊しつくすその破壊の仕方に息をのみます。
奇妙に一致する伝説によりコルテスを白い神と信じたアステカ人、そして、終焉の日を迎えるなんて・・。
白の持つ宗教的な意味を象徴している話かもしれません。
そして、付け加えると、当時、スペイン、ポルトガルといったカトリック王国の大航海事業にお墨付きを与え、キリスト教布教という名前のもと、先住民の奴隷化(&虐殺)をも認め、征服戦争に参加したものには贖宥(免罪)を与えたのはローマ法王。
カトリックの祭服は、季節や祝日によって色を使い分けているとのことらしいですが、ローマ法王も、白のイメージですよね・・・。
ゆるぎない信念や高貴な理想、完璧主義の「白」が示す激しい一面かもしれません。
- 「ローマ法王ヨハネ・パウロ2世が西暦2000年3月にバチカンの聖ペテロ大聖堂で特別のミサを行い、過去2000年にわたる教会の過ちを認め、神に赦しを求めた」という記事をつい先だってネットで知りました。
さすがヨハネ・パウロ2世です。世界中で「MyPopeは今でもヨハネ・パウロ2世」と慕われている方も多いとか・・。本当に大切な方を亡くしたことが今もって残念です。
彼なら今、純粋、高貴、無垢の存在の「白い人」として、どのようなメッセージを語るのでしょうか?
<白が持つ色の意味・マーケティングキーワード>
【POSITIVE】
- 神聖、穢れがない、純真、清純、清潔、清楚、清々しい、クリーン、潔白、始まり、新たなスタート、再生、浄化
【NEGATIVE】
- 空虚、虚脱感、潔癖、冷たさ、味気なさ、放心、薄情、冷淡、孤独、不毛、終焉、命の終わり